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赤西蠣太鴛鴦歌合戦
海賊奉行
酒と女と槍春秋一刀流戦国奇譚 気まぐれ冠者曽我兄弟 富士の夜襲続 清水港
大菩薩峠三部作血槍富士忠臣蔵 櫻花の巻・菊花の巻
旗本退屈男番場の忠太郎 瞼の母
紫頭巾
や・ら・わ 妖蛇の魔殿


58 番場の忠太郎 瞼の母
製作=1931年千恵プロ
監督=稲垣浩
原作=長谷川伸
脚本=稲垣浩
出演=片岡千恵蔵、山田五十鈴、常盤操子、香川良介、林誠之助、瀬川路三郎ほか


無声映画。マツダ映画社より松田春翠版の活弁ビデオが発売されている。
番場生まれの忠太郎(片岡千恵蔵)は5才の時に生き別れた母を捜して江戸へ。出会う女性に母の面影を求めるが、途中で料亭水熊の女将(常盤操子)が母親だと知って訪ねていく。しかし女将は「お前さんは忠太郎じゃないよ」と冷たくあたる。心からの訴えも空しく、水熊を後にする忠太郎。再び目をふさぎ、瞼の中の母を思い浮かべようとするが、そこに出てくるはずの母の姿は消えていた。そして実の母は・・・。

▼なんという純情さ!千恵蔵が全面で純な慕情を醸し出している。特に、水熊で母親と会い、切々と訴えるシーンは素晴らしい。初々しい山田五十鈴の可愛らしさも魅力だ。原作者の長谷川伸は4才で母と生き別れ、後年再会を果たす。監督の稲垣浩は8才で母と死別した。忠太郎に自らの母への想いを重ね合わせたという。忠太郎が江戸へ行く演出では「母」の字幕が効果的に使われている。主演の千恵蔵もまた幼くして母を亡くしている。文字が書けない忠太郎が老婆から筆を取ってもらい文字を書く、その時その手のぬくもりに、目を閉じて瞼の母を想うシーンは、同じく瞼に母を描いているであろう千恵蔵本人と重なってしまう。
原作では、母の呼び声を振り切って去るというラストだが、本作はそれとは異なり、和解という形で、母の懐に飛び込むハッピーエンドで幕を閉じる。これも稲垣監督の母への想いの現れであろう。千恵プロでは1936年に衣笠十四三監督でトーキー版リメイクを発表している。
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103 戦国奇譚 気まぐれ冠者
製作=1935年千恵プロ
監督=伊丹万作
脚本=伊丹万作
出演=片岡千恵蔵、市川春代、田村邦男、尾上華丈、香川良介、瀬川路三郎ほか


戦国の世。気まぐれ冠者(片岡千恵蔵)と髯の勘十(田村邦男)という二人の浪人が、小国の大名に召し抱えられた。ある日、敵国が攻めてくるという情報を得た殿様は、その二人を間者として送り込み、敵国の戦意喪失を謀ろうとした。敵国に入り込んだ二人は一度捕らえられてしまったが、牢の中に抜け道を見つけてそこを抜け出ると、なんと敵国の姫・椿姫(市川春代)の寝室だった。美しい姫に見逃してもらった二人は、作戦を実行する。たくさんの金の卵を作り、百姓の鶏小屋に置いた。いかにもニワトリが生んだように見せかけ、“金の卵”の噂はたちまち国中に広まった。我も金の卵を、と城内でもニワトリを飼う始末で、ついには国中がニワトリの虜となって、敵国を攻めるどころではなくなってしまった。かくて気まぐれ冠者はその手柄により、椿姫と結ばれてハッピーエンド。

▼本作は千恵プロで開発した塚越システム(C.K方式)によるトーキーだが、この方式の音性が悪いため、現在観られるフィルムもかなり悪い。ひどいと、かろうじて聞き取れる程度でしかない。公開当時でも不評であったようだ。しかし、オモシロイ!全篇通してオモシロイ!というか、ふざけている。なんなんだ、このくだらなさ?!ラストの“金の卵”騒動では、国中をニワトリたちが闊歩している。画像合成を駆使して、お城の屋根にまでニワトリが列をなしているのだ。ショッキングなまでにおふざけで、おとぼけな奇作・・・まさに戦国“奇譚”。
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112 赤西蠣太
製作=1936年千恵プロ
監督=伊丹万作
原作=志賀直哉
脚本=伊丹万作
出演=片岡千恵蔵、原健作、毛利峰子、志村喬、杉山昌三九、比良多恵子、香住佐代子、瀬川路三郎ほか


舞台は伊達藩。伊達兵部(瀬川路三郎)と原田甲斐(片岡千恵蔵)が企むお家騒動を探りに来た赤西蠣太(千恵蔵:二役)。甲斐の家来になりすましている青鮫鱒次郎(原健作)もまた間者だ。二人は証拠となる書簡を集めていたが、そのうちに蠣太は腸捻転にかかって伏せってしまう。そんな折家中の者たちの不穏な動きを察知して、松前鐵之助(杉山昌三九)に手紙を送り、若君暗殺は避けられた。そしていよいよ国許へ引き上げるため、その口実作りに、侍女の小波(毛利峰子)に付け文を書くことにした。どうせ振られるから面目なくなって失せる、という算段だったが・・・。

▼現存する千恵プロ作品の中で、最も有名な作品ではないだろうか。残念ながら現在残っているフィルムは完全ではなく、見どころシーンも失われているとのこと。本作の登場人物の名は鮫、鱒、鯛、小波など海にちなんでいることが興味深い。
千恵蔵は、モテない醜男・赤西蠣太と、二枚目・原田甲斐の二役をこなしている。原田甲斐は白塗りの歌舞伎調だが、蠣太は至って格好悪い。しかしとても人間的で明るいのだ。女性に対してはとても恥ずかしがり屋で、お磯の家や船の上での青鮫とのやり取りが可笑しい。結局、蠣太と小波は結ばれてハッピーエンド。伊丹万作のウィットとユーモアに富んだ演出が光る“ほっとする”作品である。
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141 春秋一刀流
製作=1939年日活京都
監督=丸根賛太郎
脚本=丸根賛太郎
出演=片岡千恵蔵、轟夕起子、沢村国太郎、原健作、香川良介、田村邦男、志村喬ほか


天保水滸伝で知られる剣豪・平手造酒の物語を、やくざの用心棒をする3人の浪人が、自分たちの道場を開くという夢を抱くドラマに変えた、丸根賛太郎監督のデビュー作。千葉道場を破門になった平手造酒(片岡千恵蔵)は用心棒として飯岡助五郎(市川小文治)の許へ行きかけたが、助五郎は評判が悪いので、笹川繁蔵(沢村国太郎)の家に身を寄せた。繁蔵の妹・お勢以(轟夕起子)は造酒に思慕し、用心棒をやめて欲しいと願う。造酒は仲間の只木巌流(原健作)と多聞重兵衛(志村喬)に、稼業をやめて道場を持とうと相談するがいきなりそんな資金もなく、結局は喧嘩の手当てを頼るしかなった。そんな中、造酒は喀血してしまい、仲間たちも斃れていく。

▼映画祭や旧作映画のイベント等でも上映される機会が多い作品のようだ。冒頭、無声映画のような字幕が入ったり、日記風に物語が進行したり、造酒が画面いっぱいに刀を振りかざしてくるアングルで終わったりして、その趣向がおもしろい。千恵蔵は明朗な中に哀しさが微妙に現れていて、これぞ彼の最大の魅力ではないかと思う。轟夕起子の可憐さは言うまでもない。じっくりと静かに観たい作品だ。
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144 鴛鴦歌合戦
製作=1939年日活京都
監督=マキノ正博
脚本=江戸川浩三
出演=片岡千恵蔵、志村喬、市川春代、ディック・ミネ、服部富子、深水藤子ほか


当時の音楽専門家から「日本最初のオペレッタ映画」と評されたミュージカル時代劇。今なお、何度も上映されている。現代ではかえって新鮮なのだろう。
長屋で傘張りをして生活する志村狂斎(志村喬)は骨董集めに狂っていて、六兵衛(尾上華丈)の道具屋に通っては怪しげな掘り出し物?に生活費をつぎ込んでいた。おかげで毎日の食事は麦こがしだ。その娘・お春(市川春代)は同じ長屋に住む若い浪人・浅井礼三郎(片岡千恵蔵)に恋している。長屋の隣に別荘を建てた香川屋(香川良介)の娘・おとみ(服部富子)もまた彼に恋している。礼三郎の許婚(礼三郎は嫌がっている)の藤尾(深水藤子)も加わり、更には陽気な殿様・峯沢丹波守(ディック・ミネ)が割り込んで一騒動起きるが・・・。

▼主演は千恵蔵だが、スケジュールの関係で撮影を短時間で終わらせなければならなかったらしく、実質は志村喬が主演格である。彼はプロ歌手顔負けの歌いっぷりで芸達者ぶりをみせている。そして面白いのは配役名で、志村喬は志村狂斎、市川春代はお春、ディック・ミネは峯沢丹波守、香川良介は香川屋、服部富子はおとみ、深水藤子は藤尾なのだ。
皆が歌を歌いながら話が展開する、肩の凝らないストレートに楽しい作品。ついつい一緒に歌ってしまう軽快な歌も魅力的だ。♪とかく浮世はままならぬ、日傘さす人、つくる人〜
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148 続清水港(清水港代参夢道中)
製作=1940年日活京都
監督=マキノ正博
脚本=小国英雄
出演=片岡千恵蔵、轟夕起子、志村喬、美ち奴、沢村国太郎、香川良介、広沢虎造ほか


舞台の演出家・石田(片岡千恵蔵)は、森の石松を演出するのに専務(志村喬)とも秘書の黒田文子(轟夕起子)とも衝突してフテ寝する。目が覚めると、自分が石松になっていて、そこは清水の次郎長親分(小川隆)の家だった。親分から金毘羅代参を頼まれるが、そこは現代人として悲劇の結末が分かっているので断る。しかし結局、許嫁のお文(轟:二役)と一緒に行くことになり二人は旅に出るのだが、三十石船での出来事や小松村の七五郎(志村:二役)の家へ行くことになったりして、段々と悲劇の結末に近づいていく・・・。

▼現代劇から時代劇へ。登場する俳優が両時代で二役する。なんとも面白い映画だ。そして何よりも、現代人の演出家が夢の中で石松になり、考えることは現代人のままで石松がどうなるかを知っている、というのが面白い。さらにこの映画には浪曲師の広沢虎造が出てくる。三十石船であの「飲みねえ、飲みねえ、寿司を食いねえ、寿司をよぉ。もっとこっち寄んねえ、江戸ッ子だってね」「神田の生まれさ」のやり取りが浪曲を交えながら展開するシーンは見応えがある。千恵蔵の軽いタッチの演技は石松役にぴったりだ。さらに、七五郎役の志村喬とその女房役の美ち奴との関西弁での会話は、夫婦漫才のようでとても可笑しい。
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229 血槍富士
製作=1955年東映京都
監督=内田吐夢
原作=井上金太郎『道中悲記』
脚本=三村伸太郎、八尋不二、民門敏雄
出演=片岡千恵蔵、月形龍之介、喜多川千鶴、田代百合子、植木基晴、植木千恵、島田照夫、加賀邦男ほか


モノクロ作品。 東海道を旅する槍持ちの権八(片岡千恵蔵)。途中、槍持ちに憧れる少年・次郎(植木基晴)と出会い、道中を共にすることになる。旅先では様々な人間模様に触れた。もうすぐ江戸というところで、仕える若殿(島田照夫)が、酒の上でのつまらぬ喧嘩で殺されてしまい、一人残った権八は槍で仇討ちをする。

▼冒頭で、キーパーソンたちが一つの渡し舟で一緒になり、やがてそれぞれ権八たちに関わっていくのだが、何気ない描写や人間の心情など、わかり易くもあり、また奥が深い。戦前の作品『道中悲記』で権八を演じた月形龍之介が本作では臆病な旅の男・藤三郎を演じているが、他作品での敵役や剣豪役とはまるで別人のようだ。そして最大の見どころであるラストの仇討ちのシーン。これは立ち回りではなく芝居だと千恵蔵は言う。剣術を知らない権八が槍を持ち主人の仇を討つというのに、強くてカッコイイ立ち回りは合わない。リアルさにこだわった内田吐夢監督は御大・千恵蔵に何度もダメを出して、リアルさを追求した。このシーンの完成に約1週間を費やしたという。
本作は、長く映画界を離れていた内田監督の復帰第一作目で、伊藤大輔や溝口健二ら巨匠たちが企画面で支えている。情緒豊かで素朴だが骨太な質の高さを痛感する作品。何度も観たくなる映画だ。
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245 曽我兄弟 富士の夜襲
製作=1956年東映京都
監督=佐々木康
原案=五都宮章人
脚本=八尋不二
出演=中村錦之助、東千代之介、花柳小菊、中村時蔵、大友柳太朗、月形龍之介、片岡千恵蔵ほか


今日伝わる日本の数ある仇討ちの中で、曽我兄弟は時代が早く鎌倉初期で、歌舞伎の演目としても有名。仇討ち物は、中山安兵衛の高田馬場や忠臣蔵に代表されるように、古来日本人が好んできた国民的文化ともいえる。曽我兄弟の仇討ち話は「曽我物」として確立され親しまれてきた。映画は本作以降製作されておらず、これが最後の曽我物映画といっていいだろう。
曽我十郎(植木基晴/東千代之介)・五郎(植木千恵/中村錦之助)兄弟は、幼い時に工藤祐経(月形龍之介)に父を殺された。やがて成人した二人は仇を討つべく、時の将軍・頼朝(片岡千恵蔵)の狩場に工藤の幕舎をつきとめ、雨降る中、夜陰にまぎれて乗り込んで行く。芸術文化祭に出品されたセミオールスター映画。イーストマン東映カラーが美しい色合いを出している。

▼千恵蔵は将軍頼朝役。出番は多くないが、曽我兄弟の運命に大きく関わる人物だ。曽我兄弟は、当時大人気の若手・東千代之介と中村錦之助。錦之助の稚児姿が秀麗。演技では歌舞伎で鍛えられた部分が全面に出ていて、特にラスト、千恵蔵扮する頼朝との対決は素晴らしい。千恵蔵の抑えた演技が光る。全体を通して丁寧に構成されていて、しっかり泣ける充実した内容の作品
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246 妖蛇の魔殿
製作=1956年東映京都
監督=松田定次
脚本=比佐芳武
出演=片岡千恵蔵、長谷川裕見子、田代百合子、植木基晴、加賀邦男、山形勲、月形龍之介ほか


時は戦国時代、信州の豪族・尾形家は側臣・五十嵐典膳(加賀邦男)と生島現藤太(戸上城太郎)の裏切りで、更科弾正(山形勲)に滅ぼされた。一子太郎丸(植木基晴)は仙覚道人(薄田健二)に救われる。道人のもとで修行を積み術を会得した太郎丸は成人して尾形宗久(片岡千恵蔵)と名を改め、父母の復讐の旅に出る。同じく弾正に恨みを抱く綱手姫(長谷川裕見子)、大蛇丸(月形龍之介)という忍術使いが現れ、三人の忍術合戦が始まる。

▼千恵蔵は日活時代にも同じ比佐芳武の脚本による『自来也』(監督はマキノ正博)で演じている。『妖蛇の魔殿』ではスタンダードサイズのカラー作品となり、画面いっぱいにアナログな仕掛けで、大蝦蟇の自来也、紅蜘蛛の綱手、大蛇の大蛇丸の忍術合戦が繰り広げられる。でも今時の特撮よりもかえってリアルな感じを受ける。歌舞伎の児雷也を思わせる鮮やかな色調の衣裳もキレイだ。「悪の報いは自ら来る也」のセリフが忘れられない。
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249 海賊奉行
製作=1957年東映京都
監督=深田金之助
原作=陣出達朗
脚本=高岩肇
出演=片岡千恵蔵、長谷川裕見子、田代百合子、加賀邦男、薄田研二、山形勲、進藤英太郎ほか


千恵蔵の“遠山の金さん”シリーズにおいて、モノクロスタンダード作品としては最後の作品(同年の次作『はやぶさ奉行』からシネスコカラーに)。
お世継ぎ問題の陰には阿片有り。船頭に身をやつして海賊船・龍神丸に乗り込んだ遠山金四郎(片岡千恵蔵)。舞台は阿片禍にあえぐ長崎。海賊・青龍の虎(山形勲)は、阿片と引き換えに罪もない女たちを異国へ売り飛ばそうとする。それを阻止せんとする金四郎の荒々しい海賊姿に遠山桜が冴え渡る。

▼なんといっても千恵蔵御大の顔が良い。ちょっとふてくされていて態度がでかい船頭・鉄平と、スキッと粋な江戸っ子・金さんを使い分ける。本作では仲間の太十(時田一男)が娘?に化けて海賊船に潜入したりもする。金さんといえば啖呵だ。長崎のならず者相手に「おうおうッ、来るのか来ねえのか。江戸っ子は気が短けぇんでい!」ヨッ、待ってました、金さん!最後は長裃の奉行姿で「恐れ入ったか」の千恵蔵節ときれいな型、そして上品な桜吹雪の刺青が印象的な名場面で一件落着。
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251,260,271 大菩薩峠 第一部、第二部、完結篇
製作=1957、58、59年東映京都
監督=内田吐夢
原作=中里介山
脚本=猪俣勝人、柴英三郎
出演=片岡千恵蔵、中村錦之助、月形龍之介、丘さとみ、長谷川裕見子、山形勲、東千代之介ほか


1957年から1年に1作のペースで作られた巨匠・内田吐夢監督作品。格調高く、そしてとにかくもの凄いスケールの映画で、宗教観豊かなタイトルバックと荘厳な音楽が特徴だ。
老巡礼を斬ったことから始まる虚無の剣士・机龍之助(片岡千恵蔵)の運命。御嶽奉納試合で龍之助に打ち倒された宇津木文之丞(波島進)の弟・兵馬(中村錦之助)と老巡礼の孫娘・お松(丘さとみ)との巡り会いあり、龍之助が文之丞から奪った妻のお浜(長谷川裕見子)と彼女と瓜二つのお豊(長谷川:二役)との悲劇あり、と様々な人物が龍之助の数奇な運命に関わっていく。

▼机龍之助を演じる千恵蔵が、本来のキャラクター性を脱して鬼気迫る演技で観る者を圧倒する。また、龍之助を仇と狙う宇津木兵馬を中村錦之助が演じ、兵馬が成長していくように錦之助の成長も三作通して感じることが出来る。お松役の丘さとみも同様だ。裏宿の七兵衛役の月形龍之介もいい。
追記:第2部から登場する猛犬ムクの演技?も見逃せない。この犬は今でいえばタレント犬?他作品にも度々登場する。
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264 旗本退屈男
製作=1958年東映京都
監督=松田定次
原作=佐々木味津三
脚本=比佐芳武
出演=市川右太衛門、片岡千恵蔵、中村錦之助、大川橋蔵、大友柳太朗、月形龍之介ほかオールスター


監督:松田定次、撮影:川崎新太郎、脚本:比佐芳武のゴールデントリオでおくる、市川右太衛門三百本記念映画であり、年間の日本映画観客動員数が最高になった年のお盆の東映オールスター作品である。
舞台は仙台。伊達家六十二万石お家乗っ取りを企む家老たちと大名潰しを狙う幕府を相手に、仙台に乗り込んだご存じ退屈男こと早乙女主水之介(市川右太衛門)が謎を解く。

▼バカ殿になり済ました藩主忠宗を千恵蔵が演じる。花魁をはべらせ袿を頭から被って寝ているシーンで登場。放蕩乱行、女さらいを繰り返すが、実は家中を欺きお家騒動の動静をうかがう為。バカ殿振りがまたよく似合う。千恵蔵御大だからこそ出せる雰囲気だ。
また、退屈男といえば豪華な衣裳。妹・菊路(桜町弘子)がさらわれて一足違いに戻った主水之介の衣裳が、その直後いざお城に乗り込もうというシーンで変わっているのには仰天。着替える暇はないほどの大事のはずなのだが、さすがは市川御大、と納得してしまう。オールスター作品はみんなが出演するので誰が何を演じてどうからんでいくか、観ていて楽しい。本作での大敵は乗っ取り計画の張本人・伊達兵庫を演じる進藤英太郎。ラストの善悪入り乱れての大立ち回りは壮観。
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266 紫頭巾
製作=1958年東映京都
監督=大西秀明
原作=寿々喜多呂九平
脚本=西川清之、高岩肇
出演=片岡千恵蔵、里見浩太郎、桜町弘子、千原しのぶ、月形龍之介、大河内傳次郎、山村聰ほか


老中・田沼意次(山村聰)の圧制に苦しむ民衆を助けるべく、巷に現れては、無双流残月の構えで悪を懲らしめる紫頭巾(片岡千恵蔵)の正体とは?

▼無声映画期を飾ったシナリオライター・寿々喜多呂九平原作の『浮世絵師・紫頭巾』は戦前戦後を通じて映画化された。本作では千恵蔵が多羅尾伴内さながらに四変化する。その変装の一つである浮世絵師・秀麿では御大自ら絵筆をとるシーンがあるが、実際に日本画家に習ったそうだ。吹き替えでないのがファンには嬉しい。そして、上品な紫色の頭巾がとても良い。大西監督は御大のお弟子さんだ。
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267 忠臣蔵 櫻花の巻・菊花の巻
製作=1959年東映京都
監督=松田定次
脚本=比佐芳武
出演=片岡千恵蔵、市川右太衛門、中村錦之助、大川橋蔵、大友柳太朗、月形龍之介ほかオールスター


お馴染み忠臣蔵を描いたお正月のオールスター映画。タイトルに「東映発展感謝記念・主演片岡千恵蔵」と出るのがたまらない。『櫻花の巻』では、浅野内匠頭が勅使饗応役を仰せつかるところから赤穂城明け渡しまでを、『菊花の巻』では内蔵助の遊興三昧から吉良邸討入りまでを細かく描いている。

▼千恵蔵の大石内蔵助は言うまでもなく良いのだが、貫禄ありすぎでさも大人物のようだ。しかし、討入りで陣太鼓を打ち鳴らす姿はさすがにカッコイイ。もう一人の御大・右太衛門は脇坂淡路守役で『桜花の巻』のみの出演。吉良役者の月形龍之介は本作では病気で臥せっている赤穂藩士で美空ひばりの父親役だ。吉良は進藤英太郎が好演した。憎々しさがしぐさや言葉に表現されていて、月形のとはまた一味違った吉良だった。そして内匠頭は中村錦之助。刃傷シーンは、錦之助の高い演技力と松田監督独特のスピード感ある細かなカット割りでとても見応えがある。それにしても、錦之助内匠頭と月形吉良が観たかった。
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282 酒と女と槍
製作=1960年東映京都
監督=内田吐夢
原作=海音寺潮五郎
脚本=井出雅人
出演=大友柳太朗、淡島千景、花園ひろみ、原健策、小沢栄太郎、片岡千恵蔵ほか


槍の名人・富田蔵人高定(大友柳太朗)は切腹に失敗し、武士を捨てて田舎暮らしを始める。京で知り合った女歌舞伎の采女(花園ひろみ)を妻にし、悠々自適の生活。やがて関ヶ原の大戦がはじまり、武士の魂を呼び覚まされた高定は槍を持って戦陣に赴く。

▼テーマは武士道とその矛盾と空しさ。そしてさらには、そこから滲み出る人間性や価値観なども感じることが出来るように思う。千恵蔵は高定の才能を認める前田利長役。どっしりと構えて、言葉少なに情勢を見守る姿が好き。主演の大友も良い。腕っぷしは強いが女には弱い酒豪キャラは得意とするところ。その妻を演じた花園ひろみも可愛らしかった。関ヶ原へ出陣する高定に、赤ちゃんが出来たことを告げる場面はとても切ない。黒髪に結んでいた朱紐を槍に結いつけて送り出すのだ。ラスト、関ヶ原の戦場に落ちているその槍の悲しさが印象的。
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